書評「先が見えない時代の「10年後の自分」を考える技術」西村行功著
前回の更新からちょうど一週間空けての更新ですね この本はもう少し早く読み終わってもよかったかな、と思います わかりやすかったので…
タイトル通り、未来の自分のキャリアプランについて考えてみようという本です。作者はこのキャリアプランについて考える技術のことを「シナリオ・プランニング」と呼んでいます。もちろん作者が勝手に作ったうさんくさいものではなくてれっきとした用語です。もともとはアメリカ軍がシミュレーションに使っていた技術を民間の会社も使うようになったということだそうです。
キャリアプランの策定には三つの要素が必要だと作者は主張します。一つが物事同士の因果関係などを見抜くつながり力、二つ目がこれからの社会がどう変化するかを見抜く先読み力、三つめがそれらの計画を実行する行動力です。ただしこの本では紹介にとどまっているのが残念なところです。もちろん本格的な紹介を行うとこの分量ではとても足りなくなるので仕方ない対応ではあるのですが…個々の技術について詳しく学びたい読者のためには巻末に書籍紹介がしてあるのでそちらを読むのが良いと思います。私はまだ読んでません。
この本はシナリオ・プランニングという考え方の紹介とその重要性、そして利用方法について語ってくれている本であると割り切っていくのがいいのかもしれません。やはり紹介も簡単なものに終わってしまっていますし、この本だけでシナリオ・プランニングをマスターするのは少し難しいように思います。最後の方に書いてあるブレイクダウン法・アローダイアグラム法に関してはすぐに使える知識ではありますがどちらかというとスケジュール管理に近い方法です。
しかしこの時代における「将来のことを見据えて行動すること」の重要性を理解し、「健全な緊張感」を持つという意味ではとても有益でした。武器としての教養という言葉がぴったりくる本です。
書評「シルバー民主主義 高齢者優遇をどう克服するか」八代尚宏
普段はあまり読まないテーマの本ですが、ゼミの関係で…しかし高齢化問題についての知識も認識も甘かったことを痛感し、読み進めるのが苦労でした。一応一週間ほどで読破しているので、理想としてはこれくらいのペースで新書を読破していきたいのですが…
タイトルにある「シルバー民主主義」とはなじみのない言葉だと思います。
少子高齢化が進む日本では、人口における高齢者の割合が増加していきます。すると政治的な力も増えてしまい、高齢者の目線によりすぎた制度改革がなされる、というものです。年金引き下げについて高齢者が徒党を組んで抗議活動をしたことは記憶に新しいと思います。本書の中にも紹介されていますが、もちろん高齢者が団結して権利を守ろうとするのはアメリカでも欧州でも起きていることで、ある意味当たり前のことです。しかしその活動に問題があります。アメリカや欧州では「世代間対立を避ける」ことを守っているのに対し、日本はそうではない。現在の年金システムが借金の上に成り立つ不安定なものという認識が欠如しているために、「負担は軽く、サービスは重く」という主張に走ってしまうのです。これこそまさに「シルバー民主主義」の典型例だと言えます。
上では年金制度についてあげましたが、このようなシルバー民主主義が引き起こしている問題はこれだけにとどまらず、雇用や政治、保険や介護にも存在している、というのが筆者の主張です。筆者に言わせれば、少ない高齢者を多くの働き盛りが支えることを前提としているシステムを、少子高齢化になっても引きずるという怠慢が引き起こしたもので、即刻システムのアップデートにより解決すべきというものです。高齢者の中での所得移転や、労働年数の引き上げ、シルバー市場の整備など筆者の解決策も示されています。
どこかで解決すべき問題であると同時に、私たちの多くが見て見ぬふりをしている問題を改めて認識させる、という点で意義のある本だと思いましたし、単純に少ないページながら読み応えのある新書でした。
シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか (中公新書)
- 作者: 八代尚宏
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/05/18
- メディア: 新書
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書評「マインド・コントロール」岡田尊司
少し時間がかかってしまいました。テスト期間に突入していたこともあり、読書する機会が減ってしまい、少し読書スピードが遅くなってしまいました。
タイトルに書いてある通り、マインド・コントロールについて書かれた本です。初めに現代におけるマインド・コントロールの具体例について述べてあり、導入の役割を果たします。その後、なぜマインド・コントロールにかかりやすい人がいるか述べています。作者によると以下の特徴がみられるとしています。
①依存的なパーソナリティ…「相手に嫌われたり、ノーということを恐れる」タイプ
②被暗示性が高い…「入って来る情報に対して、信じるべきかそうでないかの判断をする能力が低下した状態」
③バランスの悪い自己愛…自分の能力を過小評価しすぎることです
④現在および過去のストレス…「その人が受けているストレスの大きさ」
⑤支持環境の脆弱さ…「自分が自信を持てる安全基地を持てない人」
そして後半では歴史を通して、マインド・コントロールがどのような方法で行われてきたかの紹介になります。たとえばパブロフの実験が有名です。有名なパブロフの実験の後には続きがあった、という話です。実はパブロフの実験に使った犬が水没しそうになり、中にいた犬も水攻めにあってしまいました。するとベルを鳴らしてもよだれをださなくなったそうです。加えて大人しかった犬が人をかむようになったり、その逆が起こりました。これを「超逆説的段階」と呼びました。意図的に犬を九死に一生を得るような状況におくことでこの「超逆説的段階」は発生するそうです。そしてこれは人間にも応用可能ということはアメリカやロシアの軍で確認済です。このほか、様々なテクニックとその原理が紹介されています。
このような非日常的な場合でなくとも、私たちの周りにはカルトや反社会的集団など、人々をマインド・コントロールの統制下におこうとする集団が存在します。私たちはどうすべきか。筆者は次のように語っています。
「マインド・コントロールは結局自立と依存の問題に行きつく。」
「現実の社会の中で、つながりと自分の価値に対する欲求がうまく満たされないとき、その欲求を手っ取り早く満たしてくれるものにおぼれる可能性が高まる。」
本文中でも触れられていますが、「自分一人でもできるんだ」という基盤づくりによる「自立」、そして家族との安定した絆、彼らを否定せず受け止めてくれるような絆による「つながり」が必要なのです。多くの人に自分を信頼させ、依存させる組織に対する防衛手段としての「自立」と「つながり」が、今の世界では求められていると考えられます。
書評「妄想代理人」今敏+梅津裕一
今回は割とサクッと読める本です。ただ、読みやすいからといって中身がないわけではありません。というか、現代の社会をここまでうまく風刺した小説ってなかなか探しても見つからないのではないでしょうか…
本書はアニメ版妄想代理人のスピンオフ作品です。少年バットが出るという共通点はありますが、内容はアニメ版とまったく異なります。
主人公は父・母・兄・妹の四人家族です。一見幸せな家庭のように見えます。しかし実は絶妙なバランスの上に成り立っていて、いまにも崩れそうなのです。そして少年バットが現れたことにより、そのバランスが崩れていく…
これだけだとありきたりな話です。しかし少年バットという概念がこの作品では際立っています。普通、頭を金属バットで殴って来る少年がいるとして、あなたは殴られたいでしょうか?おそらく殴られたくないと思います。
しかし少年バットは救いなのです。ラストの一文はこのようになっています。
「次の瞬間、すさまじいバットの一撃と共に若菜の意識は慈悲深い闇に包まれた」
なぜ「慈悲深い」のでしょうか?ここだけ読んでも違和感が出て来るでしょう。しかし全編読み通した後でこの文章を読むと、とてもしっくりくるのです。
読みやすい・内容は面白い・長編でもない と三つの入りやすさを兼ね備えています。
とてもおすすめです。
書評「人生は20代で決まる」メグ・ジェイ
TEDで2013年度の最優秀プレゼンテーションに選ばれた筆者の本です。
筆者はヴァージニア大学で准教授を務めながら、メンタルクリニックで主に若者のセラピーを行っています。そこから得た教訓がタイトルにつながってくる、というわけです。内容に関してはまさにタイトル通りで直球の内容でした。仕事・恋愛・能力の三点から20代の人生の重要性を説いていきます。就職活動をしているということもあり、とても共感できる部分が多い本でした。
例えば仕事の場合、「アイデンティティ・キャピタル」という概念を持ち出します。個人を特徴づけるのは主に性格が多いですが、それではその人の能力を示してくれません。その人は何ができるのかは資格や経歴から判断するしかありません。この資格や経歴をアイデンティティ・キャピタルと呼んでいるのです。その一方で、「~するべき」という固定観念に凝り固まってしまった患者の例も紹介してあります。つまり、何をするべきか、これは自分の意思で決めることであるが決めた以上はそれに向かって最大限の努力をするべき、それも目に見える形で結果が残らなければならないということになります。ただの自己啓発書とは違い、現実的な部分は現実的に、決して享楽主義に走りすぎないちょうどいいスタンスを貫いています。
また能力という面においては、脳の発展事例を紹介します。私たちの脳は大学生になるまでに完成しますが、それは感情の部分だけ。未来について細かい計画を立てる部分はこの20代に最も成長するのです。その大事な時期を「今が楽しければいい」とトレーニングに使わないのはあまりにももったいなさすぎます。結婚や就職という一大イベントを抽象的なものにして遠くに置くのではなく、イメージを徹底的に具体化していくことが求められます。具体化すれば現実的な予定を作ることができますし、それにかかる時間がわかります。そして現在からその目標を達成するまでに、時間がないことがわかるのです。
自己啓発書というカテゴリーに分類されるのでしょうが、現実的な自己啓発書であり、夢想主義におらず適度に現実と向き合っています。さらに、本書はセラピーのエピソードが主な構成になっています。何も感じずに読み進めれば「こんな人もいるのね」程度に終わってしまいかねません。「何かをつかみ取る」という積極的な姿勢で読むことが読者に求められているという点でも、良書であると思います。以前紹介した「武器としての決断思考」に書いてある「読書は格闘技」という言葉を実感させられる本でした。
人生は20代で決まる――仕事・恋愛・将来設計 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: メグ・ジェイ,小西敦子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/04/07
- メディア: 文庫
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辛麺感想
一乗寺に新しくできた辛麺のお店、「からから」に行ってきました。
メニューは主に二つで、辛麺とトマト辛麺の二つ。辛さは0辛~100辛の中から選べますが、それ以上も頼めば作ってくれます。ただしお金もだいぶかかってしまいますが…今回頼んだのは20辛で、辛さとしてはキムチくらいの辛さだそうです。
麺も三種類から選べます。うどん麺、中華麺、こんにゃく麺です。本場である宮崎はこんにゃく麺を使うそうですが、今回は中華麺を頼みました。さらに、50円追加するとご飯をもらえます。余ったスープにいれてぞうすいのようにして食べるそうです。
さて、味ですがおいしかったです。ただ辛いだけではなくてスープのうまみもきちんと残っています。味に奥行きがある、ということなのでしょうか。ニラと卵もいい味です。特に卵は辛麺のスープによくあいます。ただ出来立ては熱いので、少し冷まして食べた方が味の奥行きを感じやすいかもしれません。牛のテールスープに似たあっさりとしたうまみはこれまでの一乗寺にない味だと思います。
辛さに慣れれば一気に食べられちゃいます。ぜひまた行きたいと思いました。
書評「コンサルティング入門」(内田和成)
「論点思考」などで有名な内田和成さんの本です。三部に分かれていて、一部ではコンサルを目指す人間がどのようなことをすべきか、二部では実際にコンサルになった後シニアコンサルタントになる人がどのようなことを目指せばよいのか、三部ではコンサルタントはどのようにして育てるべきか、といったことを論じています。
自分の状況もありますが、一番印象に残ったのは第一部です。日常のさりげない思考でも「なぜ?」を三回繰り返して理由を考えてみる。この思考法こそがコンサルタントの分析力のすべての基本になってくることです。この本を読んだときは満員のバスの中でしたので、「なぜこのバスはこんなに人が多いんだろう」ということをバスの中で考えていました。
コンサルタントといえば頭脳明晰なエリートが机に向かって仕事をする…といった風景を想像してしまいますが、実際は現地で体を動かしたり、コンサルに依頼してきたクライアントとどうやって信頼されるような関係を築くか、といった結構泥臭い仕事なのです。
経営コンサルタントってどんな仕事なんだろう、といった人が正しいイメージを持つには最適な本だと思います。
BBTシリーズ8 コンサルティング入門 (BBTビジネス・セレクト)
- 作者: 内田和成
- 出版社/メーカー: ゴマブックス
- 発売日: 2007/07/04
- メディア: 単行本
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