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書評「かけひきの科学」(唐津一著)

 かけひきについて科学的に論じたものといえばゲーム理論が有名です。この本では、ゲーム理論の基礎的な話を紹介しながら、それを土台に実際の交渉ではどのように行動すべきかということについて作者の経験談や実例に即して述べてあります。

 

サブタイトルにもある通り、かけひきについて最も重要なのは情報であると述べています。つまり、相手の提示した情報を評価して正当性があるのかを確認すること、さらに相手の主張を覆すような数値を調べておき提示することが大事なのです。言ってしまえば当たり前のように思われますが、実はなかなかこれができていないとい筆者は述べています。例えばマスコミやアメリカ政府が出す数値です。確かに計算すればそのような値になるかもしれません。しかし、政府の出すような数値であっても導出プロセスにおかしな点があったり、「なんでこの数値をもってくるの?」と疑問を抱くような部分がある、そして自らの主張に都合の良い数値を作り出している、と主張しています。確かに「かけひきの技術」や「仮説の立て方」について論じている部分はありますが、作者は結局正確なデータが必要、という結論にまとまっています。

 

かけひきの技術では、最悪を予測しておいて損失を減らす「ミニマクスの定理」やダミーを混ぜて相手を混乱させる「ランダムの定理」などのテクニックを紹介し、仮説の立て方では「サイバネティクス」という、あらかじめ大まかな目標を定めておいて、後から徐々に修正していく方法を提案していますが、肝心のデータの取り方についての言及が少ないのが残念です。

 

ただわかるのは、二年程度の長期的なデータでないと意味がないということです。短期的な傾向をもとに行動してしまうと木を見て森を見ずといった結果になってしまい、大損してしまうことになりかねません。

具体例が豊富であるのはとてもよいのですが、逆に具体例を増やしすぎてしまって何を言いたいかが見えにくくなってしまっているように思われます。冗長すぎる、というのが文中の表現にありますが、まさしくこれが当たるでしょう。なお、冗長度はほどほどにあればわかりやすい文章になり、それを知るためには古今東西の名著と言われる作品を読むのが良い、というのが作者の主張です。

 

結局、かけひきや交渉にはデータが必要といいながら、情報収集のやり方にまで詳しく言及されていないのが残念だと言えます。おそらく、機械などではなく実際の「人」を使った情報収集を作者は推奨しているのでしょうが、その部分が膨大な具体例のせいでかすんでしまっているのが残念です。

 

かけひきの科学―情報をいかに使うか (PHP新書)

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