書評「妄想代理人」今敏+梅津裕一
今回は割とサクッと読める本です。ただ、読みやすいからといって中身がないわけではありません。というか、現代の社会をここまでうまく風刺した小説ってなかなか探しても見つからないのではないでしょうか…
本書はアニメ版妄想代理人のスピンオフ作品です。少年バットが出るという共通点はありますが、内容はアニメ版とまったく異なります。
主人公は父・母・兄・妹の四人家族です。一見幸せな家庭のように見えます。しかし実は絶妙なバランスの上に成り立っていて、いまにも崩れそうなのです。そして少年バットが現れたことにより、そのバランスが崩れていく…
これだけだとありきたりな話です。しかし少年バットという概念がこの作品では際立っています。普通、頭を金属バットで殴って来る少年がいるとして、あなたは殴られたいでしょうか?おそらく殴られたくないと思います。
しかし少年バットは救いなのです。ラストの一文はこのようになっています。
「次の瞬間、すさまじいバットの一撃と共に若菜の意識は慈悲深い闇に包まれた」
なぜ「慈悲深い」のでしょうか?ここだけ読んでも違和感が出て来るでしょう。しかし全編読み通した後でこの文章を読むと、とてもしっくりくるのです。
読みやすい・内容は面白い・長編でもない と三つの入りやすさを兼ね備えています。
とてもおすすめです。