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書評「知的財産法入門」(小泉直樹著)

 タイトル通り、知的財産法入門について書かれた本です。知的財産法自体がITの発達と同時に様々に変化してきていますが、本が書かれた段階(2010年)までの変化を網羅してあります。

 

知的財産法の根幹をなす二つの権利である特許権著作権について詳しく書かれており、200ぺージいかないような薄さではありますが内容はとても濃いです。自分は法学部ではないので法律の知識はほとんどありませんでしたが、そんな自分でもわかるように丁寧に書かれていました。

 

知的財産とはどのような歴史のもとで成立したのか?という話から始まり、どのような場合に侵害されたといわれるのか、誰に所有権は所属しているのかという説明が続きます。

 

個人的に面白かった部分は知的財産と経済の接点について書かれた部分です。

例えば近年では、日本的経営の特徴である終身雇用が維持できなくなっています。これは経営学の重要な論題の一つであり、日本的経営に代わる制度の模索が続けられています。経営学的には終身雇用制度が廃止されることについては「従業員の帰属意識を維持する制度が無くなってしまう」というデメリットがあげられていますが、実は知的財産法の観点から見ても影響が生じるのです。これについて、作者は以下のように書いています。

バブル崩壊と軌を一にして、雇用が流動化し、退職した従業員によって、過去に会社に譲り渡した出願権の評価が低すぎたとの主張が裁判所に多く持ち込まれるようになりました」

終身雇用によって従業員が会社に帰属意識を持っていたから、会社が従業員の発明した技術を過小評価しても従業員が了承していたという背景を見ることができます。

 

また、知的財産侵害の補償額についても、著作権法の保護期間を例にとって法学と経済学では以下のような違いが発生すると述べています。

「日本の著作権法では、著作権の保護期間は、原則として著作物の創作から著作者の死後50年までと決められています。(中略)なぜこのように長く著作権を保護するかというと、著作権による恩恵を、後二代、つまり子、孫の代まで及ぼすべきであるから、と説明されています。」

「一方、経済学によると、著作権の保護は、著作者が著作物を創作するのに必要な投資を回収する期間与えられれば、基本的には十分とされます。著作権の独占は、創作への誘因として与えられるので、誘因として必要な以上の保護は過剰であり、のぞましくない、という考え方が基礎にあります。」

「このように、しばしば、経済学上の分析の結論は、法律学の制度のあり方に対して批判的なものとなります。」

 

したがって、作者としては法律学だけではなく、経済学の観点からも観察することで中立的な制度を構築することができるという立場をとっています。経済学部の人間としては今までになかった観点であり、興味深かったです。

 

 

知的財産法入門 (岩波新書)

知的財産法入門 (岩波新書)

 

 

書評「θ 11番ホームの妖精 鏡仕掛けの少女たち」(籘真千歳著)

 小説を買う時、自分はいくつかの基準で決めています。一つはどこかでタイトルを聞いたことがあるかどうか。二つ目はタイトル。三つめは雑誌のおすすめ欄です。小説というのは漫画のようにパラパラめくって面白いか判断するのがとても難しいので、安定している古典かバクチ覚悟で「ストライクゾーンに入った」ものを読むかになってしまいます。この小説は最初の分類だと三つ目で、どこかの読書サークルが推薦していたと思います。

 

本作は三つの短編から構成されています。個人的には三番目の話が一番好きであり、読むにつれて面白さが増していった、という感想でした。

 

やはり特筆すべきは舞台設定だと思います。本作は東京駅上空2200メートルに位置する11番ホームを舞台にして起こるさまざまな事件を描いたSFです。真夏の青い空に線路が浮かび、対面式のホームへとつながっている光景というのはとても絵になる光景であり、同時に近未来的でもあります。個人的にこの舞台設定にひかれて買ったというところが大きいです。近未来的、かつ革新的すぎず頭に浮かべやすい設定を、どのように料理するのだろうとワクワクが止まりませんでした。その結果、勉強に身が入らないことも功を奏して二日で一気に読み終えてしまいましたが…

 

本作は三つの短編から成っていますが、やはり一番よかったのは三つめの話だと思います。話の進め方がとても自然で、ついつい次のぺージをめくってしまいます。ライトノベル特有の、「次から次へと世界トップレベルの天才がわらわらと出て来る」という欠点はありますが、三話目に関してはそれが気にならないほど面白かったです。「上空2200メートルの東京駅」という設定が持っているSF的な雰囲気を壊さずに、一番上手に作ってあったと思います。

 

作者は第二巻も書いているようなので(残念ながら大学生協にはありませんでした)、機会があれば読んでみたいです。しかしライトノベルというのは漫画と同じで、ついつい時間を忘れさせてしまうので、読むタイミングにも十分気を付けなければな、と思います。

 

書評「話し方入門」(D・カーネギー著、市野安雄訳)

 テストが近づいてくると気晴らしに本を読む時間が増えてしまいます。しかし勉強の合間に読む本はいい気晴らしになりますし、ゲームやネットをするよりも気分転換に役に立ちます。

 

人前で話すとき、もっといえばスピーチをするときに困ったことはないでしょうか?本書はその悩みを解決してくれます。訳文もとても平易で読みやすく、読み始めてから読み終わるまで躓くことは一度もありませんでした。テスト勉強もこれくらい順調に進めばいいのですが…

 

本書は「人前でのスピーチの仕方」に焦点を当てた古典です。12章から構成されていますが、「どうすればよいスピーチができるか」という目的からそれた部分は一つもありません。最初から最後まで作者の目標は一つに固定されて動きません。さすが名著と呼ばれるものは違うな、と感じました。文章が平易であるだけでなく、章末にはまとめまでついているので後で読み返すときやメモを取る時にとても便利です。大きさも文庫版なのでコートのポケットに簡単に入ってしまいます。

 

本当にためになり、古典の古臭さを一切感じさせない内容でした。ところどころ当時の著名人の名前が引用されるのですが、それすら現代人のスピーチと行っても通用するように感じます。そして、昔の人も今の人もスピーチに対して持つ苦手意識や抵抗感は変わらないのだなぁという実感もわきました。

 

ただ、それまでの内容と比べると最終章は少しストイックに走りすぎているかな、という感想です。それまでの11章に書いてあることは明日から簡単に実行できそうなことです。「話す内容について興味を持ち、情熱を持つ」「堅苦しい言葉は使わない。冒頭のつかみには最近起きた出来事を引用すると話し手の興味を引く」といったものから「失敗することを考えない」「粘り強く練習すれば、いつか必ず努力は実を結ぶ」といったものまでありますが、どれも腹落ちする内容ですし、「うんうんなるほど」と相槌を打ちたくなります。

ただし12章での語彙力を増強するという課題に対して「辞書を持ち歩いて読みふける」「辞書の言葉を覚える」というのはストイックすぎるような気がします…個人的には語彙力にあまり重点を置くのはどうかと思いました。アメリカならいざ知らず、日本語ではあまり難しい単語を使うと聴衆に通じないことが多々ありますので…

しかしそのような点を含みつつも、現代にも通じる、というか見習うべきスピーチのポイントと的確に、かつ平易に書き記した名著であると思います。

 

カーネギー話し方入門 文庫版

カーネギー話し方入門 文庫版

 

 

書評「ホワイト企業」(高橋俊介著)

 企業についていろいろ知りたくなったので、その一環として読んでみました。おそらく本を見た大多数の人は「ホワイト企業」というタイトルに目が行ってしまってサブタイトルを見失ってしまったのかと思います。ブックオフでは100円でしたので…

 

タイトルに書かれている「ホワイト企業」ですが、これは一般的な定義とは少し違う定義で作者は使っています。おそらく一般的には「午後五時くらいにまでは帰宅、完全週休二日制、給料もなかなかいい…」という企業のことを指すものと思われます。

しかし作者の使うホワイト企業の定義は少し違っていて、従業員が独り立ちできるような教育を施している企業という意味で使っています。「働きやすさも働きがいも両方ないのが、人材使い捨てのブラック企業でしょう」と書いていることからわかると思います。そしてさらに、日本のサービス業を展開する中小企業がこのブラック企業に相当するとしていかにホワイト企業へと変身するか、これを論じています。そのために、筆者はオリジナルのチェック表を盛り込んでいます。

 

ただし、序盤の文章が非常にわかりづらいです…そして具体例もあるのですが、「きれいごと」のような論調にも見えることでまたうさん臭く感じてしまいます。この本では中小企業を対象にして書かれているため具体例もサービス業を展開する中小企業から持って来るように配慮しているのですが、どうもうさん臭く見えてしまいます。

「(東日本大震災のあと打撃を受けた企業と比較して)震災直後から電話が逆に増えました。「不安だから電話したわ」といったお客さんからです。」とありますが、「この会社が不安だから電話した」のか「お客さんが不安に感じたから電話した」のかイマイチよくわかりません。

「将来のキャリアパスが描きにくくても、感謝され、やりがいを感じるからこそ働く若者がいる。それが福祉、介護の仕事の強みでしょう」これについては言葉も出ません。これが真実なら介護企業で人手不足ということは起こりえないでしょう。

 

結局、サービス中小企業でいくら人材育成プログラムを充実させたところで、業種の魅力度が無ければ意味がないのです。ハーズバーグの理論が有名ですが、まずは給料などの衛生要因を整備することが肝要です。まずは中小サービス業を若者にとって魅力的な企業にしないことには教育プログラムの整備も無意味でしょう。

衛生要因を整備した後にはじめて動機づけ要因の議論が成り立つのに、作者はいきなり動機づけ要因の整備についての話題から始めてしまっています。その意味では空虚な内容といえるかもしれません。東京に本社を構えている大企業と中小企業を並べても中小企業を選ぶような、そんな魅力を中小企業に与える内容を議論すべきです。教育プログアムの整備はそのあとです。

ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略 (PHP新書)
 

 

書評「日本人の英語」(マーク・ピーターセン著)

 先日英語の試験を受ける機会があったため、買って読んでみました。前回紹介した「経営戦略の教科書」同様、20の短いコラムに分かれています。筆者が日本人の英語(大人も学生も)を添削している時に、「ここはこうすればいいのに」と思ったことを説明してある本です。たとえば自由英作文のような、「ネイティブらしさ」を求められる問題への対策にも直結しています。

 

「不定冠詞や定冠詞はどういった規則のもとでつけるのか?」「文頭に"Additionally"とつける英文が不自然なのはなぜか?」といった疑問点を解説してあります。文法自体は理解していても、それを応用して英文を書こうとすると様々な問題が生じます。単語の使い分けや文章の書き方などがきちんと英語らしいものでないとテストでは減点されてしまいますし、高得点も狙いにくくなります。

 

具体例としてあげてありますが、「Univercity of Meiji Tennis Club」などと書けば「英語のわからない日本人がかわいい間違いをしている」などと温かく見守られることうけあいです。「Last night, I ate a chicken in the backyard.」という英文を見て「ギャグかな?」と思われるのはなぜなのでしょう?異国の言葉である英語の論理を、できるだけ正確に伝えようという筆者の努力が見てとれる親切な本であり、とてもためになりました。

 

しかし、この本一冊読んだだけで英語を完璧にできるというわけではないでしょう。「英語をマスターする本」というよりも「英語らしい英語を書く」という意識への橋渡しにとてもぴったりな一冊だと思いました。

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)

 

 

書評「経営戦略の教科書」(遠藤功著)

 自分は経営戦略論について少し勉強したことがあるので、少し復習という意味合いも兼ねて読みました。200ページ程度の本ですが、18の部分に区切られているので一章あたりの分量はかなり小さいです。しかし各章ではわかりやすく、かつ端的な説明がされておりとても読みやすいです。

 

経営戦略の一つの章として起業についても書いてあったのですが、この章が個人的に面白かったです。ここで力を入れて説明されているのが「起業する際は論理的な経営ビジョンだけでなく、パッションが必要」ということです。この点については以前読んだ「武器としての交渉思考(瀧本哲史著)」にも同様のフレーズがあり、興味深かったです。(ちなみに「武器としての~」の方では投資家という立場から書かれており、「パッションのない企業には投資すべきではない」といったことが書いてありました)

著者の遠藤功さんも、「武器としての~」の著者である瀧本哲史さんも、会社こそ違いますが同じ戦略コンサルタント出身ということで共通するものがあるのかもしれません。

 

知らなかった知識としてはM&Aの部分です。日本板硝子などの例を学んでいたので意義などは知っていたのですが、買収後にも問題が発生するという観点は知らず、勉強不足でした。

 

「経営戦略」というと、無機物的で、冷淡な印象を受けるかもしれません。しかし本書で説明されているように、「パッション」や「会社らしさ」が重要視されるなど、実は人間臭いところもあるもので、その点の認識を改めることができました。

各章の分量が短いため、読み返したり過去の文章を参照する際にも便利です。とても読みやすい本でした。

経営戦略の教科書 (光文社新書)

経営戦略の教科書 (光文社新書)

 

 

書評「人口学への招待」(河野稠果著)

 ブログを更新できていなかったのはこの本を読むのに時間がかかっていたからです。とりあえず一読したのですが、まだ完全に内容を把握できたというわけではありません。おそらくころあいを見計らって二週目に突入すると思います。その時は追記という形で記すと思います。

 

購入したのは一年くらい前の話です。ゼミで東京一極集中について議論していたのですが、その中で人口の集中について議論する機会がありました。(もともと自分は増田寛也氏の「地方消滅」に触発されてテーマ選択をしたので、これはある意味当然の帰結だと思います)その時に人口集中の理解を深めるために、と思って買ったものです。結局だいぶ時間がたってしまいました。論文には残念ながら人口一極集中の抜本的な解決策は載せられなかったように思います。

 

私の主観ですが、中公新書は本格的な内容の本が多いように思います。そしてこの本もその例にもれず、かなり本格的です。そのうえ分量も一般的な新書よりも多く、かなり苦戦しました。

 

この本はその名の通り、人口学についての説明を軸にした本です。人口がどうやれば増えるのか、どのような要因によって出生率は減少するのかということについては様々な議論がなされてきました。これを人口学が産声を上げた19世紀後半から現在まで、漏れをできるだけ減らして細かく書いてあります。当然、分量も膨大なものになってきます。

 

少子化、人口転換論、結婚といった様々な観点から、人口学ではどのような分析をしているかを書いてあります。最近話題になっているエマニュエル・トッドはフランスの人口学者であり、彼の提唱した「ヨーロッパにおける合計特殊出生率のライン」についてももちろん触れてあります。読めばわかりますが、とても画期的で視覚に訴えるものであるため、わかりやすいです。

 

個人的には出生率の減少要因について、「子供を育てることに関しては、子供から得られる効用と育児にかかる費用(機会費用も含む)が釣り合ってないから発生する」といった、合理的なアプローチをとったベッカーなど、五つのアプローチが紹介されているのが興味深かったです。

 

これだけ書いてまだほんの一部しか紹介できていない、ということを考えても、本書の情報量はすさまじいと言えるでしょう。その一方で読み応えがあるという意味ではおすすめです。

 

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)